飛行機の窓からセブのエメラルドグリーンの海が見えたとき、正直「この値段で大丈夫なのか?」と疑心暗鬼だった。欧米留学の半額以下で申し込んだ語学学校は、コンクリートの校舎が剥げていた。でも初日のマンツーマンレッスンでその不安は消えた。40代の地元講師が、私のつたない自己紹介を遮らず、ノートに「I want to~」の代わりに「I\d like to~」と赤ペンで優しく書き込んでくれた。教室にエアコンはないが、大型扇風機が回る音さえ英語漬けのリズムに感じられた。
三週目、変化が起きた。市場でマンゴーを買うとき、つい「How much?」と投げやりに聞いた自分に気づいてハッとした。講師が繰り返し教えた「Could you tell me the price?」が自然に出てきたのだ。路上のジプニー運転手と行き先交渉するうち、値切りフレーズだけでなく「兄弟、今日は渋滞か?」と雑談できるようになった。英語が「勉強」から「呼吸」に変わった瞬間だった。
費用対効果が圧倒的だったのは、1日8コマの授業料が夕食付きで月15万円ほど。欧米ならこの半日分の金額だ。安さの秘密は人件費と物価だけじゃない。韓国資本の学校が多く、日本人向けカリキュラムが成熟している。私の学校ではTOEIC専門講師が、日本人が間違いやすい前置詞のニュアンスを図解入りで解説してくれた。「on the tree(実がなっている)/in the tree(外から入った)」の違いをヤシの木を指さして教わる体験は教科書では得られない。
ある雨の午後、講師とコーヒーを飲みながら話したことが忘れられない。「フィリピン人は間違いを怖がらない。植民地時代に英語を強制された歴史が、完璧主義を捨てさせたんです」と彼は笑った。その言葉で肩の力が抜けた。帰国時の空港で、入国審査官の早口の質問に即座に答えられたとき、3ヶ月前の自分なら固まっていたと実感した。セブの暑さと雑然とした街並みが、むしろ英語を「道具」として使う覚悟を育ててくれた。
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